文献レビュー

社会資本とインターネット利用

今週行われている2010年度International Communication Associationの国際会議では、以下の論文が6月22日に発表されました(http://icaconference.wordpress.com/2010/06/22/mediaandinternetuse/):

Maurice and Pelzer Ben, Vergeer. “Consequences of media and Internet use for offline and online network capital and well-being. A causal model approach.” Journal of Computer-Mediated Communication 15, no. (2009): 189–210.

充実された文献レビューを含んでいましたので、ここで要約します。

アブストラクト:オランダで電話インタビューによる調査を行い、伝統的なメディアおよびニューメディアの、社会資本や幸福への影響を探った。結果は、オンラインでの社会資本はオフラインの社会資本を補充する機能があり、伝統的なメディアやニューメディアが既存の社会資本を破壊するという推定は実証できなかった。オフライン社会資本の補充の役割を果たすオンライン社会資本は孤独や社会的サポートとの相対性はなかった。

時間移転

メディアの社会効果の研究において、よく言及されているのは「時間移転」ということである。すなわち、テレビやインターネットなどのメディアの利用時間が増えるほど、社会参加や対人関係に利用できる時間が減少したりして、社会参加が減少したり、人間関係が衰退したりするとの理論である。Putnamの2000年出版の『孤独なボウリング』という本はその代表例であるといえるであろう。彼の調査の結果、テレビ(電子娯楽)が「市民参加を殺した」「首謀者」として糾弾された(野沢、2008)。これに対して、ニュースメディアの消費は社会参加の増加に繋がっている研究もある(Norris (1996), Shah et al (2001))。Vergeer & Pelzerの調査の結果、非コミュニケーション的なメディアの利用は、社会的参加には影響はないように示されている。すなわち、時間移転理論を批判している。オンラインメディアの場合、それはマルチタスクに適応した端末環境の充実性のおかげであるであろうとVergeer & Pelzerが意味付けしている。私の解釈ではあるが、インターネットの前に座っている時、利用者が一つの非コミュニケーション的な行為(Youtube、ショッピングなど)のみをしているのではなく、同時にチャットしたり、Twitterやったりしているわけである。また、著者が言及するのはKraut (2002)やOfcom (2008)の研究で、これらの研究によれば、オンラインの人間関係はオフラインの人間関係を置き換えるのではなく、むしろ補充する役割を果たすとのことを強調している。

社会資本としてのオフラインとオンラインの社会ネットワーク

社会ネットワーク(家族・友達・近所の人・知り合いなど)の大きさが個人の幸福度にもたらす影響に関する研究は、様々な影響をもたらしていることがVergeer & Pelzerの論文でよくわかった。個人の社会ネットワークが大きいほど孤独感が増加することを強調する研究(Dykstra et al、2005)があれば、社会ネットワーク(家族・友達)の諸要素と主観的な人生満足とでは肯定的な相対性があることを示したり(Helliwell and Putnam、2004)、社会的ネットワーク(家族・近所の人・知り合いなど)はソーシャルサポートや孤独減少に繋がっていることを示したり(Caplan, 2007)、既存の社会ネットワークをオンラインに持ってきて、以前の関係を活性化することを示したりする(Ofcom, 2008)研究もある。Vergeer & Pelzerの本調査の結果、オンラインネットワークの社会的サポート機能に関しては、孤独感を減少する証拠はないため、SNSの可能性は人と人の間の親密な関係を育むよりも、「架け橋」の役割のほうが現実的である(Ellison et al., 2007)と示唆している。

このとても簡単な要約でわかるように、ニューメディアの影響は様々な形で捉えている。本論文の解釈をしたGary L. Kreps(http://icaconference.files.wordpress.com/2010/06/jcmc-commentary_kreps.pdf)はこう語る:

「歴史をみると、新しいメディアの登場は不合理的な懸念を生みだしてきました。ラッダイトの伝統とも言えるでしょう。すなわち、新しいメディア技術が社会的関心を引き起こし、(特に若い)利用者は利用によって社会的に無関心になるとの懸念が生じてしまってきました。かつては、ビデオゲームを始め、テレビなどの利用が利用者に暴力的かつ非社会的行為を引き起こすだろうとの悲鳴が聞こえていました。しかし、厳密な研究は、その懸念の事実性を実証していません。かえてテレビやビデオゲームは肯定的な教育効果や人間発達の価値があると実証しています。あるメディアの負の効果あるいは正の効果というのは、実は個々人のユーザの属性(コミュニケーション能力、知的能力、道徳)によって異なります。」

私自身おかしいと思ったのは、調査のSampling sizeは810人で、わずかの96人がインターネット利用者だったということでした。たった96人の経験で信頼できる結果は出るのでしょうか。調査は2005年に実行しましたので、今実行したほうはもっと回送率が高く、もっと充実した結果が出るでしょう。

結果そのものに関しては、私はKrepsに賛成です。『オンライン化する日常生活』の編著の野沢氏も同じようなことを強調しています。

「インターネットの効果は、肯定・否定のいずれの面に関しても、フィッシャーが言うように極端に単純な傾向を見出すことがますます難しくなっている・・・インターネットを、どのような人たちが、どのように使うことによって、どのような効果がもたらされるのか。」 pp.82

さらに、電話普及史の学者であるFisher (1997)も:

「電話の普及史研究の知見に基づけば、テクノロジーが私たちの生活に与える影響は、具体的な技術ごとに多様であって、矛盾した傾向を含む複雑で間接的なものであり、おそらく全体として控えめな変化をもたらすにすぎない」と強調する。

そして最後にまた野沢(2008):

「既存の社会生活を危機に陥れる元凶になっている糾弾するにせよ、薔薇色の夢を実現する革命として礼讃するにせよ、テクノロジーが原因となって一方向の社会変化をもたらすという議論になりがちなのである。」 pp.80

参考文献

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